整形外科

五十肩の病期別評価と治療プロトコル|整形外科的視点から

2025.10.31

対象読者: 柔道整復師・理学療法士・整体師・医療系学生

五十肩(肩関節周囲炎)は、臨床現場で非常に頻度の高い疾患であり、適切な病期判断と治療プロトコルの選択が予後を大きく左右します。

本稿では、整形外科での臨床経験10年、肩関節専門の整形外科医一家の知見を基に、五十肩の病期別評価方法と、エビデンスに基づいた治療プロトコルを解説します。


五十肩の病態生理学

定義と発症メカニズム

五十肩(Frozen Shoulder / Adhesive Capsulitis)は、肩関節を包む関節包の線維化・癒着による疼痛と可動域制限を主徴とする疾患です。

病態の本質:

  • 関節包(特に前下方)の肥厚・短縮
  • 滑膜の炎症性変化
  • 腋窩陥凹(axillary recess)の癒着
  • 烏口上腕靭帯(coracohumeral ligament)の肥厚・短縮

疫学

  • 好発年齢: 40〜60歳代
  • 性差: 女性にやや多い(女性:男性 = 3:2)
  • 罹患率: 人口の2〜5%
  • 両側発症: 約20〜30%(片側発症後、2〜5年以内に対側発症)
  • 糖尿病合併: 一般人口の約5倍(10〜36%)

リスクファクター

  • 糖尿病(最も重要)
  • 甲状腺機能異常
  • 頸椎疾患
  • 心疾患
  • パーキンソン病
  • 長期間の肩関節固定

五十肩の3つの病期(Neviaser分類を基に)

五十肩の病期分類には諸説ありますが、臨床的に最も有用なのは3期分類です。

第1期:急性期(Freezing Phase / 炎症期)

期間: 発症〜2〜9ヶ月

病態:

  • 滑膜の炎症
  • 関節包の炎症性変化
  • 血管新生の亢進
  • 疼痛が主症状

臨床所見:

  • 激しい疼痛(特に夜間痛・安静時痛)
  • 疼痛性可動域制限
  • 能動運動 = 他動運動(両方制限)
  • end feelはspasm(筋性防御)
  • Painful arc sign陽性

画像所見:

  • X線:特異的所見なし
  • MRI:関節包の肥厚、滑膜炎、腋窩陥凹の消失

第2期:拘縮期(Frozen Phase / 凍結期)

期間: 4〜12ヶ月

病態:

  • 関節包の線維化
  • 腋窩陥凹の癒着
  • 烏口上腕靭帯の肥厚・短縮
  • 滑膜炎の軽減

臨床所見:

  • 疼痛は軽減
  • 可動域制限が主症状
  • 能動運動 ≒ 他動運動(両方制限)
  • end feelはhardまたはfirm(組織性)
  • capsular pattern(外旋 > 外転 > 内旋の順に制限)

画像所見:

  • MRI:関節包の著明な肥厚、T2強調像で低信号

第3期:回復期(Thawing Phase / 解凍期)

期間: 12〜24ヶ月(〜42ヶ月)

病態:

  • 炎症の消退
  • 関節包の徐々なリモデリング
  • 可動域の改善

臨床所見:

  • 疼痛はほぼ消失
  • 可動域の徐々な改善
  • end feelはfirmからsoft-firmへ
  • ADL動作の改善

予後:

  • 約60%:完全回復
  • 約30%:軽度の可動域制限残存
  • 約10%:明らかな可動域制限残存

病期別評価プロトコル

共通評価項目

1. 問診

疼痛評価:

  • VAS(Visual Analogue Scale)
  • 夜間痛の有無・程度
  • 安静時痛の有無
  • 動作時痛のパターン

機能評価:

  • ADL動作の制限(結帯動作・結髪動作)
  • 仕事・スポーツへの影響
  • 睡眠障害の有無

既往歴:

  • 糖尿病・甲状腺疾患
  • 外傷歴
  • 過去の肩疾患

2. 視診・触診

  • 姿勢評価(猫背・巻き肩)
  • 肩甲骨の位置・動き
  • 筋萎縮の有無(特に棘上筋・棘下筋)
  • 圧痛点(肩峰下、烏口突起周辺)

3. 可動域測定(ROM)

測定肢位:

  • 背臥位(重力の影響を排除)
  • 立位・座位(実用的可動域)

測定項目:

  • 屈曲(flexion)
  • 外転(abduction)
  • 外旋(external rotation):第1肢位・第2肢位
  • 内旋(internal rotation):第1肢位・第2肢位
  • 結帯動作(hand behind back)
  • 結髪動作(hand behind head)

重要ポイント:

  • 能動運動(active ROM)と他動運動(passive ROM)の差
  • 肩甲上腕関節と肩甲胸郭関節の動きの分離
  • end feelの評価

4. 筋力テスト(MMT)

  • 腱板(棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋)
  • 三角筋
  • 上腕二頭筋

鑑別のポイント:

  • 五十肩:疼痛で力が入らない(偽性筋力低下)
  • 腱板断裂:力自体が入らない(真性筋力低下)

5. 特殊テスト

腱板損傷との鑑別:

  • Painful arc test
  • Drop arm test
  • Empty can test(Jobe test)

インピンジメント症候群の評価:

  • Neer test
  • Hawkins-Kennedy test

関節不安定性の評価:

  • Apprehension test
  • Load and shift test

急性期特有の評価

重要な評価ポイント:

  1. 炎症の程度評価
    • 熱感の有無
    • 腫脹の有無
    • 夜間痛の強さ(VAS)
  2. 疼痛誘発動作の特定
    • どの角度で痛いか
    • どの動作で痛いか
  3. レッドフラッグの除外
    • 腱板断裂
    • 石灰沈着性腱板炎
    • 感染性関節炎
    • 腫瘍

拘縮期特有の評価

重要な評価ポイント:

  1. 拘縮パターンの評価
    • Capsular pattern(外旋 > 外転 > 内旋)
    • 特に外旋制限の程度
  2. 関節包の硬さ評価
    • End feelの質(hard / firm)
    • 腋窩陥凹の触診
  3. 肩甲上腕リズムの評価
    • 肩甲骨の代償運動の有無
    • scapular dyskinesis

回復期特有の評価

重要な評価ポイント:

  1. 残存する可動域制限
    • 特に問題となる方向
  2. 筋力評価
    • 長期の不動による筋力低下
  3. 機能的動作評価
    • ADL動作の遂行能力
    • 仕事・スポーツ復帰の可否

病期別治療プロトコル

急性期の治療プロトコル

治療の目標:

  1. 炎症の抑制
  2. 疼痛の軽減
  3. 日常生活動作の改善

医学的管理(整形外科との連携)

  • 薬物療法: NSAIDs、アセトアミノフェン
  • 注射療法: ステロイド注射(肩峰下、関節腔内)
  • 物理療法: 温熱療法(深部加温)、電気治療

徒手療法

❌ 禁忌事項:

  • 強い他動的ストレッチ
  • 無理な可動域拡大
  • 痛みを伴う運動療法

✅ 推奨される手技:

  1. 安楽肢位の指導
    • 夜間:腋窩にクッション
    • 座位:肘掛けで支持
  2. 軽度の振り子運動(Codman Exercise)
    • 重力を利用した自動介助運動
    • 疼痛を誘発しない範囲で
  3. 周辺組織へのアプローチ
    • 頸椎の調整
    • 胸椎の可動性改善
    • 肩甲骨周囲筋のリラクゼーション
  4. 軟部組織モビライゼーション
    • 僧帽筋上部線維
    • 肩甲挙筋
    • 三角筋

治療頻度: 週1〜2回、1回30〜60分

注意点:

  • 疼痛をモニタリングしながら
  • VASが2以上上昇する手技は避ける

拘縮期の治療プロトコル

治療の目標:

  1. 可動域の維持・改善
  2. 関節包の伸張
  3. 肩甲上腕リズムの正常化

徒手療法

✅ この時期に有効な手技:

  1. 関節モビライゼーション(Maitland法)
    • Grade I-II:疼痛抑制
    • Grade III-IV:可動域改善(痛みが軽減してから)
    方向:
    • Caudal glide(下方滑り):外転制限
    • Posterior glide(後方滑り):屈曲制限
    • Anterior glide(前方滑り):外旋制限
  2. 関節包ストレッチ
    • 腋窩陥凹のリリース
    • 前方関節包のストレッチ
  3. 烏口上腕靭帯のリリース
    • 短縮した靭帯の伸張
  4. 筋膜リリース
    • 大胸筋・小胸筋
    • 広背筋
    • 肩甲下筋
  5. 肩甲骨モビライゼーション
    • 肩甲胸郭関節の可動性改善
    • 前鋸筋・菱形筋の活性化

運動療法

  1. 自動介助運動
    • タオル体操
    • 棒体操
    • 壁押し体操(wall climbing)
  2. ストレッチング
    • 肩関節後方のストレッチ(Horizontal adduction stretch)
    • 内旋・外旋のストレッチ
  3. 肩甲骨エクササイズ
    • Scapular setting
    • Wall slide
    • Scaption

治療頻度: 週2〜3回、1回30〜60分

ホームエクササイズ:

  • 1日2〜3回、各10回
  • 痛みが出ない範囲で
  • 毎日継続することが重要

注意点:

  • 過度なストレッチは炎症の再燃を招く
  • end feelに達する手前で止める
  • 翌日に痛みが増強する場合は強度を下げる

回復期の治療プロトコル

治療の目標:

  1. 完全な可動域の獲得
  2. 筋力の回復
  3. ADL・仕事・スポーツへの復帰
  4. 再発予防

徒手療法

  1. 残存する可動域制限へのアプローチ
    • 関節モビライゼーション(Grade IV)
    • End range mobilization
  2. 筋力強化の補助
    • 抵抗運動時の関節安定化

運動療法

  1. 筋力強化
    • 腱板トレーニング(軽負荷・高回数)
    • 肩甲骨安定化筋群の強化
    • 段階的な負荷増加
  2. 機能的トレーニング
    • ADL動作の練習
    • 仕事動作の練習
    • スポーツ動作の段階的復帰
  3. 姿勢改善
    • 猫背・巻き肩の矯正
    • 体幹安定化

治療頻度: 週1〜2回、1回30〜60分

ホームエクササイズ:

  • 筋力トレーニング:週3〜4回
  • ストレッチング:毎日

治療効果判定と予後予測

治療効果判定の指標

客観的評価:

  • ROM改善度(特に外旋)
  • VAS減少度
  • MMT改善度

主観的評価:

  • SPADI(Shoulder Pain and Disability Index)
  • QuickDASH
  • ASES score(American Shoulder and Elbow Surgeons score)

予後不良因子

以下の因子がある場合、長期化・難治化しやすい:

  • 糖尿病(特にHbA1c > 7.0%)
  • 両側発症
  • 初診時の外旋制限が高度(< 10度)
  • 3ヶ月以上の保存療法で改善なし
  • 甲状腺機能異常
  • 治療コンプライアンス不良

手術適応

保存療法で改善しない場合(約5〜10%)、以下の手術が検討される:

  • 非観血的授動術(manipulation under anesthesia)
  • 鏡視下関節包切離術(arthroscopic capsular release)

手術適応の目安:

  • 6ヶ月以上の適切な保存療法で改善なし
  • 日常生活に著しい支障
  • 疼痛が持続

症例呈示:病期判断と治療経過

症例1:急性期症例

患者: 52歳、女性、事務職 主訴: 右肩の激痛、夜間痛で眠れない 現病歴: 1ヶ月前から誘因なく右肩痛出現、徐々に増悪

初診時所見:

  • VAS:安静時6/10、動作時9/10、夜間8/10
  • ROM:屈曲80度(疼痛)、外転60度(疼痛)、外旋10度(疼痛)
  • End feel:spasm
  • Painful arc sign(+)

病期判断: 急性期

治療方針:

  1. 整形外科受診を勧め、ステロイド注射実施
  2. 安楽肢位指導
  3. 周辺組織のリラクゼーション
  4. 軽度の振り子運動

経過:

  • 2週間後:VAS 4/10に減少
  • 1ヶ月後:VAS 3/10、夜間痛軽減
  • 3ヶ月後:拘縮期へ移行、ROM訓練開始

症例2:拘縮期症例

患者: 58歳、男性、会社員 主訴: 左肩が動かない、服の着脱困難 現病歴: 6ヶ月前から左肩痛、3ヶ月前から痛みは軽減したが動きが悪い

初診時所見:

  • VAS:安静時1/10、動作時4/10
  • ROM:屈曲100度、外転80度、外旋5度(著明制限)
  • End feel:hard
  • Capsular pattern明瞭

病期判断: 拘縮期

治療方針:

  1. 関節モビライゼーション(Grade III)
  2. 烏口上腕靭帯リリース
  3. 自動介助運動指導
  4. ホームエクササイズ指導

経過:

  • 1ヶ月後:外旋15度に改善
  • 3ヶ月後:外旋30度、日常生活動作ほぼ問題なし
  • 6ヶ月後:外旋45度、回復期へ移行

エビデンスに基づく治療選択

各治療法のエビデンスレベル

治療法急性期拘縮期回復期エビデンスレベル
NSAIDsLevel 1
ステロイド注射Level 1
徒手療法Level 2
運動療法Level 1
物理療法Level 2-3

◎:強く推奨、○:推奨、△:症例による

最新のエビデンス

Cochrane Review(2014)より:

  • 運動療法は長期的に有効
  • 徒手療法は短期的な疼痛軽減に有効
  • ステロイド注射は短期的に有効

JOSPT(2013)ガイドラインより:

  • 患者教育が重要
  • 早期からの運動療法が推奨される
  • 病期に応じた治療選択が必要

まとめ:治療成功の鍵

五十肩治療を成功させるための重要ポイント:

  1. 正確な病期判断
    • 急性期に無理な可動域訓練をしない
    • 拘縮期に適切な関節モビライゼーションを行う
  2. 患者教育
    • 病態と予後の説明
    • セルフケアの重要性
  3. ホームエクササイズの徹底
    • 治療室での治療だけでは不十分
    • 毎日の継続が鍵
  4. 他職種連携
    • 必要に応じて整形外科へ紹介
    • 糖尿病などの基礎疾患管理
  5. 長期的視点
    • 焦らない
    • 段階的な改善を目指す

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参考文献

  1. Neviaser AS, Neviaser RJ. Adhesive capsulitis of the shoulder. J Am Acad Orthop Surg. 2011;19(9):536-542.
  2. Kelley MJ, Shaffer MA, Kuhn JE, et al. Shoulder pain and mobility deficits: adhesive capsulitis. J Orthop Sports Phys Ther. 2013;43(5):A1-31.
  3. Uppal HS, Evans JP, Smith C. Frozen shoulder: A systematic review of therapeutic options. World J Orthop. 2015;6(2):263-268.
  4. Hanchard NC, Goodchild LM, Kottam L. Conservative management following closed manipulation of the shoulder for the management of adhesive capsulitis. Cochrane Database Syst Rev. 2014.
  5. Vermeulen HM, Rozing PM, Obermann WR, et al. Comparison of high-grade and low-grade mobilization techniques in the management of adhesive capsulitis of the shoulder. Phys Ther. 2006;86(3):355-368.

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